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日和んぐ

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2008.08.23 Sat 「 『その気持ちの名前は、』物書き
えへへへへ!
みそさんにまたSS頂いちゃった!
なんでこんな素敵なSSを短期間で作れるんだろう…!!!
本当に尊敬します!

しかも今回は私がリクエストしたシチュで作ってくれたんですよ!!

もう 感 激 !! (´□`*

頂いて、速攻読んで悶え死にました。
やべぇ。まじやべぇ。学園パロ大好き!!!!





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別に、あんたのためじゃないです。
昨日、ちょっと多くお弁当のおかずを作り過ぎてしまって
捨てるのも勿体ないから、こうして詰めてきてあげただけなんですからね。
 いっつもあんたが「妹子のお弁当美味そうー!」とか言いながら、
僕のを勝手につまみ食いしてくるから。
しょうがないから、持ってきてあげただけです。勘違いしないで下さい。

『その気持の名前は、』

 珍しくちょっと早目に授業が終わった僕は、2つの弁当箱を手に階段を上がる。
太子たちの3-Aクラスは、校舎の三階にある。
昼休みになると僕か太子かのどちらかが相手のクラスに迎えに行って、
天気が良ければ屋上に出て、2人で昼食をとることになってる。
 
 このおかしな習慣が始まったのは、一ヶ月くらい前から。
ある日のこと、四時間目が終わって一息ついていると
僕のクラスに突然太子が現れた。
「妹子、ちょっと来い!」
そう言うなり、戸惑う僕の腕を引いて行く。
「ちょっ…放して下さい!みんな見てるじゃないですか!!」
 
 僕の腕を掴んだまま、足早に廊下をずんずん進む太子。
同級生がみんな、好奇の入り混じった目でこっちを見てくる。
いくつか階段を上がって複雑に入り組んだ廊下を進むと、
突き当りに分厚い鉄の扉が見えた。
「もうぅ~!…急に何なんですか!?」
「妹子、お前に私のとっておきを見せてやる!」
僕を振り返った顔は、清々しいほど無邪気な子供の顔をしていた。

 太子の手が鉄の扉を押し開く。
「うわ……!」
そこには、雲一つない青空。
彼がいつも着ているジャージの色に似たそれは、初夏の太陽に遠く霞んでいる。
「ここはさー、ほとんど誰も来ないんだよ。
 私もこの間散歩してて、偶然見つけたんだ。……だからさ、」
 この場所を知ってるのは、妹子と私だけ。
 
最後の方のセリフは、変にフェードアウトしていった。
ちらりと横を見ると、太子は変な顔をして遠くを見ていた。
太子の頬は少し赤かった。
 
 何となく、それ以上何も言えないまま
僕らは馬鹿みたいに、並んで空を見つめていたのを覚えている。
あれからずっと、僕らはこの秘密の場所で昼休みを一緒に過ごしていた。

 「会長ー!迎えに来まし……」
毎日、同じだと思っていた。
僕たち2人は、ずっとこのまま変わらずにこうしていくんだろうと、
愚かな僕はなぜか信じきっていた。

 あんたを囲むように集まる、名前すら知らない人たち。
机に腰掛けたあんたは笑いながら、何か言葉を返す。
周囲から、どっ、と笑いが上がった。
それを見た途端に僕の体はスッと冷えていった。
 「あ!おーい、妹子ー!!」
漸く僕の存在に気付いた様に、笑って走り寄ってくる。さっきと同じ、笑顔で。
声を掛けられたことで、周囲の人の目が一斉に僕に向けられる。
 
 堪えられなくて、その場に居たくなくて。
僕は肩に触れたあんたの手を振り払って、教室から走り出た。
後ろの方で、あんたが何かを叫んでいる。でも、聞きたくなかった。
 
 めちゃくちゃに走って気がつくと、いつの間にかあの場所についていて。
ドアを開けて外に出ると、やっぱりそこには空があった。
 
 
 手に持った2つの弁当箱。
酷く馬鹿馬鹿しく思えて、僕はそれを白いコンクリートの床に投げつけた。
かしゃん、とあっけない音を立てて中身が零れる。
 あんたが好きな、甘い卵焼き。タコの形に切れ目を入れたウィンナー。
林檎もちゃんとうさぎの形をしている。
 
 呆然と他人事のようにそれらを眺める。
何なんだよこれは。これじゃまるで、僕が馬鹿みたいじゃないか。
バン、と背後でドアが開かれた音がする。
「ぜーはー、ぜーはー…何?一体、どうしたんだ、妹子っ!?」
肩で息をしながらあんたが言ったけど、僕は返事をしなかった。
 だが、僕の足元に散らばった無残な姿の弁当を見て察したのか、
戸惑うように声を掛けてくる。
「いも…「何で追って来たんですか。」
遮るように言葉を重ねる。
一瞬だけ空白があり、あんたの声が少し不機嫌そうに響く。
「何でって…そりゃお前、追うに決まってるだろ!」
「意味不明です。」
「妹子!!」
「別に、僕である必要なんてなかったんでしょう!!?」
 
 あの日と同じ、真っ青な空に、そう叫んだ僕の声が吸い込まれる。
ねぇ、太子。あんたには、僕の代わりになる人がたくさんいるんですね。
 そこに必然性はなく、単に都合が良かっただけ。
それなのに何を舞い上がっていたんだろう。
自分はこの人にとって特別なのだと、勝手に思い違いをして。
「こっちを向け妹子。」
「嫌です。」
そう言ったのに、肩に手を置かれ強制的に体を反転させられる。
 
 「何を泣いてるんだ。このバカ芋。」
「泣いてなんかないです。このバカ太子。」
肩を掴む手の力が意外に強くて、今度は腕を振り払うことが出来ない。
「いいか、妹子。私はな、」
あんたは僕の目を見ながら、一つずつ吐き出すように言葉を紡いでいく。
「あんまり知られてないんだけどな。実は私、他人に触れられるの苦手なんだ。」
 
 それがどうかしたんですか、と言おうと思った次の瞬間には
僕はあんたの腕の中にいた。
「でも、お前は平気だから。妹子は特別だから。」
 
 悔しくて、顔を見られたくなかった。
背が高いくせにひょろっちい太子の、
薄い胸板に額を擦り付けながら、僕は込み上げる嗚咽を殺す。
制服のワイシャツからはいつもと同じカレーの臭いがしたけど、
その時はそんなに嫌じゃなかった。
 
 「あー、妹子。私な、今何かすごい嬉しい。嬉しくて死にそう。」
「そうですか。じゃあ、死んで下さい太子。」
相変わらず酷いなぁ、と小さく笑う震動が僕に伝わる。
 
ちくしょう。なんでぼくは、こんなやつなんか。
 
 何だか負けを認めるみたいで、
溢れそうなほど胸の中に降り積もった気持に、名前なんてつけられなかった。
 
 
[おしまい。]
2008/08/22  『その気持ちの名前は、』 (c)みそ汁
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