みそさんに素敵な学園パロSSを頂きました!
転載OKを頂いたので、載せさせて頂きます!
「いい加減教えて下さい。用って何なんですか、閻魔先輩。」
放課後の校庭。理由も話されぬまま、校舎の裏へと強引に連れて行かれて、
僕は少し不機嫌そうな声を出した。
だって、会計の仕事がまだ終わってないのだ。
五時半までに松尾先生に、報告書を提出しないといけないのに。
少し先を歩いていた細い背中が立ち止まる。
振り向いた顔には、一見すると柔和そうな笑みが貼り付いている。
それなのに、何故か僕は一歩後退った。ざり、と靴の裏で砂が鳴る。
「よし!周りに誰もいなくなったし、そろそろいいかな。」
パチンと両手を顔の前で合わせる。
青白い肌は、色白を通り越して死体みたいだ。
「あのさ、いもちゃん。」
「何ですか。」
貼り付けた笑みはそのままに、血色の透ける紅い瞳の目が、スッと細まった。
「太子のこと、どう思ってる?」
「…何で、ここでその名前が出てくるんですか。」
「いいから。質問に答えてよ。」
何なんだ一体。
抑えた声音は、有無を言わさない圧迫感がある。
相変わらず、この人の考えていることはサッパリ分からない。
「どう…って言われても………」
「太子のこと、好き?嫌い?」
いきなりの質問に、僕は目を見開いた。
「付き合いたいとか、思う?」
「はぁ!?」
理解不能。ていうか、脈略が無さすぎるよ!
なんでこの僕が、あの青ジャージと付き合いたいなんて思わなくちゃならないんだ!?
「おっ、思うわけないでしょう!?あんなカレー臭い人、嫌ですよ!!」
いつもワガママばっかり言って、僕を振り回して。
ああ、思い出したら腹が立ってきた。
だから心拍数が急激に上がっているのも、頬が熱いのも、きっと怒りのせいだ。
そうに決まってる。
不意に閻魔先輩の口許から笑みが消えた。
「それ、本気で言ってるの?」
「え?」
熱を持たない紅い瞳が、静かに僕の目に向けられる。
心の中を暴かれるような、そんな居たたまれない気持ちになる。
視線から逃れるように、思わず俯いた。
「いもちゃんさぁ、」
感情の籠らない声が言った。
「ホントに太子のこと、分かってる?」
その言葉に何故かカチンときた。顔を向き合わせていたくなくて、背を向ける。
「…閻魔先輩には、関係ないでしょう。」
…やり過ぎだ。目上の人に対する態度でないことは分かっている。
でも、そんな言葉が口をついて出て来てしまった。
しかし相手はそれで引き下がらなかった。
「いーや?関係大アリだねぇ。だって、俺は太子のこと好きだもん。」
のんびりとした声が響く。だけどきっと、眼は笑っていないんだろう。
「好きだもん」というフレーズに、体が強張った。
「太子が常日頃、どんなことを考えてるのか…キミは知らない。」
僕は何も答えられなかった。
そう言えば確かに、僕は太子の気持ちをほとんど知らない。
いつも何かにつけてベタベタと構ってくるものだから
ただ漠然と、自分は気に入られているのだろうと思っていただけだ。
彼の口から、ハッキリとそう聞いた訳でもない。
「僕…は…」
「…ねぇ。キミがいらないんなら、さ。太子は俺がもらっちゃうけど、良い?」
耳元に顔を寄せられ、低く囁かれると全身が粟立った。
反射的に相手の顔を見る。
中性的な顔立ちの副会長は、初めて見せる妖艶な笑みを浮かべていた。
背筋を暑さのためではない汗が流れ落ちるのを感じる。
ざり、とまた靴の裏で砂が鳴った。頭にポンと手を置かれる。
「素直になりなよ?俺に嘘は通用しないんだからね。」
「じゃ~そういうコトだから。よろしくね!」
パッと一瞬で元の柔和な笑顔に戻る。
ばいばーい、と元気よく手を振りながら先輩は走り去って行った。
残された僕は緊張が解けると同時に、その場にヘナヘナと座り込んでしまった。
「…そういうコトって言われても…どういうコトだよ……。」
はぁ。なんか疲れた。
僕はやっぱり、閻魔先輩が苦手だったりする。
「僕の気持ち…か。」
本当のところ、僕は太子をどう思っているんだろう。
あの人は臭いし、ウザいし、キモいし、正直ムカつくけど。
…けど、それだけじゃ、ない気がする。
「何なんだよ…もうぅ……。」
髪に手を突っ込んで、ぐしゃぐしゃと掻き混ぜてみる。
けれども、胸の中のざわざわは一向に収まりそうもなかった。
***
「どこ行く気ですか、大王。」
「鬼男くん!?い、いつからそこにいたのっ!!?」
昇降口の角を曲がったところで、俺は鬼男くんと出くわした。
「あんたが小野を校舎裏に引っ張って行ったくらいからですよ。」
「それって最初からじゃん!?嫌だわー、この子ったらとんだピーピングト…」
「殴るぞお前。」
「ごめんなさい。」
俺が素直に謝ると、鬼男くんは腕を組みながら小さく溜息を吐いた。
「…あんたも、損な性格してますね。」
声には呆れの成分が、多分に混じっていた。これには苦笑いを返すしかない。
「だってさぁ、見てらんないんだもん。いもちゃん、素直じゃないからさ。」
「だからって何もすすんで悪者役買って出ることもないでしょう。
さっきので、あんた完全に小野に嫌われたと思いますよ。」
導火線に火は点けてきた。後は、待つだけ。
「別にいいよ。誰かさん1人だけが、ちゃんと分かっててくれれば。」
俺は、とんとんっ、と階段を2・3段駆け上がる。
ちょっとだけ振り返って、少し上から特別な視線を送ってあげる。
「それが分からないような子を、付き人にした覚えはないけど?」
俺がニッコリ笑ってみせると、鬼男くんも少し笑って答えてくれた。
「はいはい…。ちゃんと分かってますよ、閻魔大王。」
俺のことは世界中で君だけが分かっていてくれればいい。
追いついてきた褐色の掌が俺の手を握る。繋いだ場所から彼の体温が伝わった。
もうそれだけで、息が詰まりそうなくらいに幸福になる。
この世界で俺は今、君と素敵な恋をしています。
[Fin.]
2008/08/16 『導火線』 (c)みそ汁
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